校長メッセージ

2018年9月の記事一覧

2学期始業式講話


                グローバル人材?

 夏休み中、私は就職を希望する3年生10数名に模擬面接を行いました。どの生徒も、背筋をピンと伸ばし手を膝の上に置き、大変礼儀正しく、面接を受けていました。面接をした私もとても清々しい気持ちになりました。また、面接の時だけでなく、日頃から校内で生徒諸君に元気に挨拶をしてもらうと、やはり気持ちがいいものです。礼儀正しい本校生徒を誇りに思います。これは日本ではある意味、見慣れた光景ですが、一旦、日本の外に出ると決して当たり前の光景ではありません。私はアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどの高校を訪ねたことがありますが、あまり挨拶はしてくれませんでした。また彼らの社会では目上の人の前でも足を組んだりすることにあまり抵抗はないようです。日本では考えられないことですよね。

 
 そもそも日本の礼儀正しさや他人を気遣う思いやりなどの道徳観や価値観は昔から日本の社会に根付いた伝統的な文化です。他人の感情や考えていることを言葉にしなくても敏感に察知し読み取る能力、自分がどのように振る舞うかを自分と他人との人間的関係によって決定してく文化が根付いています。社会心理学者の北山忍という人がこれを「相互協調的自己観」と呼んでいます。日本をはじめてとして東アジアでみられる自己観であると言っています。これは言語習慣を見ても明らかです。英語は一人称を示す言葉、すなわち、自分のことを示す言葉は
"I"の一語しかありません。しかし日本語は「私、僕、俺」など相手との関係はその場の状況によって敏感に使いわけます。先生が生徒の前で、自分のことを「先生」と呼んだり、子供の前で父親が「お父さんは…」と言ったりするのは日本語だけの特徴であり言葉からも人間関係を重視するこの社会の規範が見えてきます。

 
 このような協調性を重んじ、自分と他人との関係性を大事にする習慣は日本の伝統的な文化・価値観であり、大切にしなければならないと私は思っています。しかし戦後、この日本的な文化・価値観は否定される傾向にありました。「日本人は同調主義的で権威に弱い」と戦前の価値観は全て悪いものだと主張する、いわゆる進歩的知識人といわれる人々から批判されてきました。戦前の軍国主義や全体主義はこのような日本社会にある体質が原因であり、これからは欧米のように主体性を持ち確固たる自己を備えた近代的個人に日本人は変わらなければならないとされました。さらに
1990年代後半からの「構造改革」そしてその後の世界的に急速に広まるグローバル化がこの流れを決定的にしました。ヒト・モノ・カネ・サービスが国境を越えて世界中を自由に移動していく世界では、日本古来の価値観よりもグローバルな価値観、もっと言えば、アメリカの価値観でやっていかないとだめだということです。欧米型の個人主義、自律性、主体性、自己責任などの価値観が日本社会に押し付けられていきました。教育界でも「グローバル人材の育成」などと言って、主体的に行動し、自己主張ができる人材を育てようとしています。でも本当にそれでいいのでしょうか?日本人が長年、受け継いできたこの価値観を失ってもいいのでしょうか?私はちょっと違和感を持ちます。もちろん自分の意見や考えを言葉にして伝えること、議論をすることは大切ですが、「落としどころ」を見つける知恵も必要です。主体的に学び、行動していくことは大切ですが、周りと協調していく配慮も必要です。また、今世界を冷静に見渡すと、このグローバルスタンダードは行き詰ってきました。世界のいたるところで、自国の価値観、文化を取り戻そうという動きは様々な形で現れてきています。そしてもっと言うと、日本の伝統的な価値観が世界中で注目されています。私が訪問した発展途上国の多くでは、日本人の真面目さ、勤勉さ、正直さを尊敬の念を持って見くれました。「おもてなし」という言葉に代表される他人のことを気遣う優しい心が今、世界の人々を惹きつけています。ですから君たちには、是非、真面目で勤勉で礼儀正しく、人の気持ちを察することのできる優しい所商生でいてほしいと思います。それこそが君たちが「グローバル人材」に成長するための第一歩だと私は信じています。

 
 最後に日本人女性で初めて国連事務次長・軍縮担当上級代表に就任し、世界的に活躍している中満泉さんの言葉を紹介します。

「謙虚さや自己主張が苦手といった日本人の資質が国際舞台では足かせになるという考えを私は一蹴します。教育レベルの高さや勤勉さ、押しどころと引き際を心得たバランス感覚など、日本人であることは逆に強みになります。また、日本人は仕事を安心して任せられると思われていることも強みです。日本人は地道に努力して何でも一生懸命にやりますから信用されています。たとえば時間を守るとか、私たちの体に染みついているごく基本的なことが、国際社会で働くときには評価されるのです。」

 
 当たり前のことを当たり前にちゃんとやる、すなわち「凡事徹底」こそが「グローバル人材」になる第一歩かもしれません。

それでは2学期、行事が多く忙しい毎日になりますが、凡事徹底でがんばってください。