校長メッセージ

11月朝礼校長講話

「〇〇のはずだ」のワナ

 

 みなさん、おはようございます。

 早いもので11月になりました。10月は色々なことがありました。特に台風19号や10月25日の豪雨では県内でも川が氾濫し、多くの人々が被災しました。被災された方々には、一日も早く元通りの生活に戻れるよう祈りたいと思います。11月は穏やかな月になってほしいと思います。

 また、10月には大変、嬉しいニュースもたくさんありました。その1つとして、ノーベル化学賞に吉野彰さんが、リチウムイオン電池の発明者の1人として受賞したことです。我々日本人にとって、大変嬉しい勇気づけられるニュースでした。

 しかし今日は、ノーベル経済学賞の話をしたいと思います。日本ではあまり報道されませんでしたが、今年のノーベル経済学賞は、マサチューセッツ工科大学のアビジット・バナジー教授、エスター・デュフロ教授、そしてハーバード大学のマイケル・クレマー教授の共同受賞でした。この3人は、発展途上国での貧困問題について、実証実験によって具体的な解決策を示したことが評価されました。

 これまでにも、貧困問題に関する研究でノーベル経済学賞を受賞した研究者はいますが、この3人が最も画期的だったことは、「ランダム化比較試験」という手法を取り入れたことです。この「ランダム化比較試験」というのは、医薬品開発での動物実験などで使われる試験です。具体的に言うと、ある薬を与えた集団と与えない集団とで、どういう違った結果が出るか客観的に実験する方法です。これを貧困問題の解決に応用したのです。

 この手法を貧困対策に応用すると、例えば子供たちが、なかなか学校に通うことのできない貧しい村で、ただで給食を提供するグループと、そうでないグループを比較し、どちらのグループでより多くの子供たちが学校に通うようになるか、という実験を実際に行って、その結果を比較、検証するということです。

  3人の受賞者は、このような試験を多く実施することで、とても興味深い結果が得ました。例えば寄生虫を駆除するための薬を配ったり、親に教育の大切さを教育するほうが、お金や制服を配るより学校に通う子供の数が圧倒的に増えたということが、ケニアの小学校での実験で明らかになりました。これは意外ですよね。お金や制服、教科書を与えるほうが学校に行く子どもが増えるように思いますよね。しかし実験の結果はその反対でした。

 これまでの発展途上国への援助や貧困対策は、「こうすればこうなるはずだ」という思い込みが我々先進国すなわち与える側にありがちでした。「お金や物を、たくさん援助してあげれば、貧困は減るはずだ。減らないとしたら、その国の政府が悪いか、その国の人々が怠け者なのだ。」などと与える側である私たちの傲慢な態度も、しばしば途上国援助の分野では見られました。しかし、この3人は実験の結果を通して、エビデンス、すなわち科学的根拠を世界に示したのです。思い込みでなく「こういう実験をしたらこういう結果が出ましたよ。」と世界に示したのです。この功績は、これからの途上国援助、貧困対策の改善に大きな影響を与えていくと思います。

 このことを通して皆さんに伝えたいことは2つあります。一つ目は、思い込みではなくエビデンス、科学的根拠をもとに物事を判断してほしいということです。例えば、皆さんが将来、お店を経営するとします。商品に消費税込みの価格を表示するか、消費税抜きの価格を表示するか決めなければなりません。どうしますか?多くの人が、「消費税込みの方がわかりやすくていいや」と思うかもしれません。しかし実は、アメリカのある研究者がこの「ランダム化比較試験」を活用して「消費税などの税の表示が販売にどう影響するか」という実験をしました。その結果は「税込みで表示すると税抜き表示の場合に比べ8%売り上げが下がる」というものです。つまり税抜き表示のほうが売れるという結果が出たのです。

 今や、この「ランダム化比較試験」は行動経済学をはじめ、多くの分野で活用されています。皆さんの中にも将来、大学で経済学や経営学を学ぼうと考えている人もいると思います。是非、実証実験によるエビデンス、科学的根拠を大切にする人になってください。

 ふたつめは、世の中であまりニュースにならないことも注目してほしいということです。ノーベル化学賞の吉野さんは大きく報道されましたが、ノーベル経済学賞は、日本ではほとんどニュースになりませんでした。しかし今回の授与は長いノーベル経済学賞の歴史にとって画期的な出来事です。また今後の経済学全体の方向性も大きく変える受賞であると言っていいと思います。

 世の中には情報が溢れています。テレビは勿論、ネットやSNSなど様々な媒体からニュースを得ることができます。しかし、意外と偏った情報が多いのです。ものすごく大切なニュースが日本では報道されないことも多くあります。是非、アンテナを高くし、自分の興味・関心・感性にピピっとくる情報を敏感にキャッチしてほしいと思います。

 これから秋が深まり、過ごしやすい季節がやってきます。3年生諸君は進路が決まっていく人が増えていくと思います。しっかりアンテナを高くして、自分にとって必要な情報をキャッチし、卒業後に向けて、今から準備を始めてください。